王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 クレアは首から下げていた神殿長より預かった鍵を取り出す。そのまま鍵穴に差し込むのではなく、白百合の上にぴたりとくっつけると、ズズッと音を立てて両開きの扉がひとりでに開いていく。
 その様子を見ていたジュリアンは護衛騎士に命令を出す。

「君たちはここで待機だ」
「はっ」

 仕事に忠実な護衛を置いて、ジュリアンはクレアに目配せする。
 こくりと頷き返し、一緒に白い靄に包まれた室内に足を踏み入れた。すると、ゆっくりと扉が閉じていく。ぴったりと閉じられた扉を確認し、ジュリアンが振り返った。

「久しぶり。クレア」
「……王太子の威厳を保つのはもういいの?」
「え、そのほうがよかった? クレアはこっちのほうが気が楽かと思ったんだけど」
「…………」
「人前では取り繕うけど、今は二人きりなんだし。前のままでいさせて?」

 軽い口調は下町で会ったときを彷彿させる。
 だが、ふと気づく。彼も王太子の責務を果たすため、無理をしていたのではないかと。立太子した今、彼は第二王子ではなく王太子として常に見られている。昔のように、自然体で振る舞える場所はもうない可能性だってある。
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