王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 王族だから見慣れているのか、特に驚きも感動もないようだった。彼の両手がすっと前に伸び、呆気なく聖杯がジュリアンの手元に収まる。それから自然な動きで胸元から銀の布を取り出し、聖杯を包み込む。
 何か専用の儀式があるのかと構えていただけに拍子抜けだ。

「…………これで終わり?」
「そうだよ。聖杯は女神様からの贈り物だからね。女神様と王族の契約の証でもある。魔術がかけられているから、契約者である王族しか持ち出せないんだ」

 初めての情報に目を瞬く。
 浄化の旅に出ていたクレアは神殿上層部の内部事情に疎い。聖女の負担を減らすため、神殿長が善意で書類業務もすべて請け負ってくれていた。しかし、このままではいけないなと思い直す。
 聖女という肩書きを持つ以上、これからは神殿のこともしっかり勉強しておく必要がある。
 決意を新たにし、ひとまず先延ばしにしてきた問題から向き合うことにした。

「前に、考える時間がほしい、と言った件なのだけど……」
「うん」
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