男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。
「あぁ、もう。本当に鬱陶しいんで、あっち行ってくれませんか?」
「――ふぅん」

 丞さんの態度に、旦那さんが意味ありげな声をあげた。

 でも、すぐに表情を整える。

「じゃあ、俺は注文の料理でも作ってくるか。英麻、行くぞ」
「はぁい」

 二人で仲良く部屋を出ていく様子を見送った。ただし、扉は開けっぱなしなので向こうの様子が遠目に見える。

「本当にすみません。あの人昔からずっとあんな感じで。お節介なんですよ」

 疲れた様子の丞さんには悪いけど、私は案外、二人の雰囲気が好きかもしれない。

「いえ、お気になさらず。いい人たちじゃないですか」

 厨房のほうを見つめる。

 二人は本当に仲がよさそうだった。時折笑い声が聞こえてくる。

「にぎやかで楽しそうです」

 こういうのを穏やかな空気というのだろうか。

 私は口元を緩める。

「俺の前では二人ともずっとあんな感じです」

 しかし、彼の双眸を見て、すぐに後悔した。

 あまりにも優しいまなざしに、私の心臓が大きく音を鳴らしたから。

 咄嗟に顔を背けて、赤くなった顔を隠す。
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