男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。
「杏珠さん?」
「な、なんでもないですっ!」

 自分の声が上ずっている。ごまかそうとして、余計に墓穴を掘ったみたいだ。

「……だったらいいんですが」

 彼の声が明らかに落胆している。

 このままではまずい。話を逸らしたほうがいい。

「丞さんは、一途な恋ってどう思いますか!?」
「――はい?」

 けど、さすがにこの話題は露骨すぎた。そして、絶対に間違えた話題の選択だ。

「……いえ、その。あのお二人を見ていて、思っちゃって――」

 厨房を見る。丞さんは納得したように「あぁ」と声をあげた。

「あの二人が幼馴染だっていう」
「そ、そうです。なんか、すごいなぁって思っちゃって」

 幼馴染を一途に想うのもすごいけど、一番はきちんと結ばれているということだと私は思う。

 私なんて、理想だけがどんどん高くなっていくのに。

「私は理想が捨てられないんです。そのせいで、母にも意地を張ってしまって……」
「意地、ですか?」
「はい。お見合いでもしたらどうかって言われたんです。ただ、私は――」

 ここまで口にしておいて、気づいた。

 私は今、絶対に余計なことを言ったと。

「わ、忘れてくださいね! さっきのは弱音というか、なんというか――」

 手をぶんぶんと横に振る。

 対する丞さんは真剣な面持ちになった。
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