言葉足らず。
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10月も、半ば。夜は、ずいぶん冷える。
「寒い…、」
退勤処理を済ませ、職員玄関を出た瞬間に冷たい風が肌を刺す。こんな夜遅くに、独りごちてもだれからもなにも返ってはこない。
今日も、仕事が終わったのは日付も変わる間近。もちろん日勤だったし、明日も朝から仕事である。
病院薬剤師3年目。主に抗癌剤に関わる業務を担当する化学療法チームに配属されてからは、ほとんど毎日こんな生活だった。
仕事の合間に食べ損ねた夕飯はコンビニで買うことにして、スマートフォンに繋いだイヤホンを耳に突っ込んで歩き出す。