言葉足らず。

***

 10月も、半ば。夜は、ずいぶん冷える。

「寒い…、」

 退勤処理を済ませ、職員玄関を出た瞬間に冷たい風が肌を刺す。こんな夜遅くに、独りごちてもだれからもなにも返ってはこない。

 今日も、仕事が終わったのは日付も変わる間近。もちろん日勤だったし、明日も朝から仕事である。
 病院薬剤師3年目。主に抗癌剤に関わる業務を担当する化学療法チームに配属されてからは、ほとんど毎日こんな生活だった。

 仕事の合間に食べ損ねた夕飯はコンビニで買うことにして、スマートフォンに繋いだイヤホンを耳に突っ込んで歩き出す。
< 10 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop