降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。
「私は美冬を怖いなんて思ったこと、一度だってない」


美冬は絶対に私の前で喧嘩をすることはなかった。私への配慮だと思う、私が怖い思いをしないようにって。

確かにさっきの美冬は、いつもの美冬とは違った。

ああ、こうやって戦ってきた人なんだって……そう思ったよ。

でも、怖いなんて思ったことないし、さっきだって怖いなんて思わなかった。

だって、美冬が優しい子だって私は知ってるもん。理不尽な喧嘩なんて一度もしたことがないって、私はちゃんと知ってるよ?


「いい子ちゃんといると疲れんだよ」


美冬の絞る出すようなその言葉が、心にズキッと突き刺さった。


「……なによそれ。だったらなんで遠ざけるの!?いっつもそう!!私をその場から遠ざけてたのは美冬じゃん!!私はっ……」

「巻き込めるわけねぇだろ!!」

「巻き込まれたなんて思ってない!!」

「……いい加減わかれよ。足手っ……!?」

「はいはい、峯ちゃん。落ち着けって」


美冬の口を押さえて、包み込むように抱き締めている桐生組の人。


「梓ちゃん。悪いけど峯ちゃんのバ先に行っててくれる?」

「でもっ……」

「大丈夫大丈夫~。峯ちゃん久々の喧嘩で、アドレナリン出まくって興奮しちゃってるだけだからさ~。あんま気にしないであげてくれる~?」

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