降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。
「……美冬。私、友達やめてやんないから。絶対に」


それだけ言って、私は美冬のバイト先へ向かう。

しばらくしても美冬は戻って来ない。

とっくに閉店時間になってて、店長さんが裏の部屋に案内してくれた。


「この部屋、好きに使ってくれていいからね。鍵は美冬ちゃんが持ってるから、戸締まりだけよろしくって言っておいて」

「はい。ご迷惑をおかけしてすみません。ありがとうございます」

「いいのよ。美冬ちゃんにはお世話になってるもの。こちらこそありがとうね」


美冬が認められている……それがとても嬉しくて、涙が出そうになった。美冬は勘違いされやすい子だから……。

── 店長さんが帰って数十分後。

ガチャッとドアが開いて、そこに立っていたのは……目をパンパンに腫らした美冬だった。

泣き腫らしたってすぐに分かる。


「美冬……」

「……っ、ごめん……梓っ……ごめんねっ……」


私は立ち上がって美冬に駆け寄り、強く抱き締めた。


「ごめんっ……。私、美冬に甘えてた。危険から遠ざけてくれる美冬に甘えてた……っ。守れてばっかでごめんね……っ」

「梓はあたしに守られてればいいっ……。あたしは、あんな姿を梓に見せたくなかっただけ。歯止めが利かなくなって、理性がブッ飛びそうになる……あんな醜い姿を……っ。怖がらせちゃうって、嫌われちゃうかもって……だからっ……」
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