エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない~プラトニックな関係はここまでです~
「あの……でも、なんとかしますから。何日かなら、ホテルとか……それに職場の人に、もし退去日までに新しい部屋が見つからなかったら、しばらく泊まってもいいと言ってくれている方も何人かいるんです」
「それは……さっきの、泉さんとか?」
「そうですね。あと、デザイナーの先輩とか。シェアハウスに住んでいるらしいんですけど、部屋が余っているそうで」


 そこで朔夜さんがピクリと身体を揺らし、私に鋭い視線を向ける。


「まさかそれは、男もいるのか?」
「え? あ、はい。その先輩と、もうひとり男性が住んでいるみたいです。でも、女性もいるらしいので別に」
「ダメだ」


 キッパリと言って、朔夜さんはこちらに身を乗り出した。


「その、先輩のところはダメだ。きっと陽葵だって許さないだろう」
「そう……ですかね……?」
「ああ。泊まるなら、ほかのところだ」


 やけにこわい顔をした朔夜さんに念押しされ、私は最終手段の居候先から、自分より五つほど年上の職場の先輩の名前をしぶしぶ除外する。

 とはいえ、ちょっと人見知りなところがある自分にはルームシェアなんて向いていないと思うので、先輩のところはいよいよ行き詰まったときの奥の手だったのだけど……まさかこんなに強く朔夜さんに反対されるとは、少し予想外だった。

 相変わらず顔の下半分を掛け布団で隠しながら、チラと朔夜さんへ目を向ける。

 彼は丸椅子の上で長い脚を組み、顎に手をあてなにやら難しい顔で考え込んでいる様子だ。

 そうしてふとうつむきがちだった顔を上げ、私に視線を向ける。


「陽咲。退院したら、俺の家に来い。俺と一緒に住むんだ」
「……え」


 耳に届いた言葉の意味がすぐには理解できなくて、ポカンと目を丸くした。

 そんな私をじっと見つめながら、朔夜さんがさらに続ける。
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