エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない~プラトニックな関係はここまでです~
ぼうっと思考をめぐらせる私を、朔夜さんの耳心地のいい低い声が現実に引き戻す。
「そういえば陽咲、あのマンションから引っ越すんだったな。次に住むところはもう決まったのか?」
これまで私はずっと、兄とふたり暮らしをしていた。
けれど兄が亡くなってしまった今、2DKの部屋はひとりには広すぎる。だから引っ越しを考えていると、以前話したのを覚えてくれていたようだ。
けれども私は何気ないその問いかけに、ギクリとわかりやすく身をすくませてしまった。
朔夜さんも、そんな私の異変に気づいたらしい。訝しげに眉根を寄せて「陽咲?」と名前を呼ぶ。
「……えっと……」
言うべきか、迷う。
だけどついさっき、これからはもっと朔夜さんを頼ると約束した。
それにきっとこれは、今このとき黙っていたところでそう遠くない未来にバレてしまうことだろう。
意を決して、私はそろりと朔夜さんと目を合わせる。
「その……引っ越し先はもう見つけて、契約もしたんですけど」
「……『けど』?」
「実は……その引っ越す予定だったアパートが、おととい火事で全焼してしまったと不動産屋さんから連絡がきまして」
私が打ち明けた嘘みたいな本当の話に、朔夜さんが唖然と目を見開いて固まる。
数秒の間の後、彼はようやくといった様子で口を開く。
「それは……代わりの部屋は、すぐ用意してもらえるのか?」
「それが、まずは火事で焼け出されてしまった方の対応に追われていて、まだ準備はできていないみたいで……私自身でも探しておいてほしいと、昨日また電話がありました」
こちらの話を聞いた彼が、また思いきり顔をしかめる。
「なんだそれは……待て、今住んでるマンションの管理人には? もう、部屋を出ることは伝えていたのか?」
「……はい。実は、退去日まであと十日しかなくて……あの部屋に次に住む人ももう決まってるみたいなので、退去する日をずらすことも難しいらしいです」
今度こそ、朔夜さんは絶句した。最初に火事の連絡を受けたときの私のように。
さすがの彼でも『なんでも話してほしい』と伝えた直後に、まさかこれほどヘビーな内容を聞かされるとは思ってもいなかったに違いない。
居心地悪く身を縮ませた私は、そっと掛け布団を鼻先まで引き上げた。
「そういえば陽咲、あのマンションから引っ越すんだったな。次に住むところはもう決まったのか?」
これまで私はずっと、兄とふたり暮らしをしていた。
けれど兄が亡くなってしまった今、2DKの部屋はひとりには広すぎる。だから引っ越しを考えていると、以前話したのを覚えてくれていたようだ。
けれども私は何気ないその問いかけに、ギクリとわかりやすく身をすくませてしまった。
朔夜さんも、そんな私の異変に気づいたらしい。訝しげに眉根を寄せて「陽咲?」と名前を呼ぶ。
「……えっと……」
言うべきか、迷う。
だけどついさっき、これからはもっと朔夜さんを頼ると約束した。
それにきっとこれは、今このとき黙っていたところでそう遠くない未来にバレてしまうことだろう。
意を決して、私はそろりと朔夜さんと目を合わせる。
「その……引っ越し先はもう見つけて、契約もしたんですけど」
「……『けど』?」
「実は……その引っ越す予定だったアパートが、おととい火事で全焼してしまったと不動産屋さんから連絡がきまして」
私が打ち明けた嘘みたいな本当の話に、朔夜さんが唖然と目を見開いて固まる。
数秒の間の後、彼はようやくといった様子で口を開く。
「それは……代わりの部屋は、すぐ用意してもらえるのか?」
「それが、まずは火事で焼け出されてしまった方の対応に追われていて、まだ準備はできていないみたいで……私自身でも探しておいてほしいと、昨日また電話がありました」
こちらの話を聞いた彼が、また思いきり顔をしかめる。
「なんだそれは……待て、今住んでるマンションの管理人には? もう、部屋を出ることは伝えていたのか?」
「……はい。実は、退去日まであと十日しかなくて……あの部屋に次に住む人ももう決まってるみたいなので、退去する日をずらすことも難しいらしいです」
今度こそ、朔夜さんは絶句した。最初に火事の連絡を受けたときの私のように。
さすがの彼でも『なんでも話してほしい』と伝えた直後に、まさかこれほどヘビーな内容を聞かされるとは思ってもいなかったに違いない。
居心地悪く身を縮ませた私は、そっと掛け布団を鼻先まで引き上げた。