エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない~プラトニックな関係はここまでです~
 ──眠れない。

 兄が亡くなって以降、ほとんど毎日……私は、不眠に悩まされている。

 昨日も布団に入ってしばらくは緊張していたものの、引っ越しの疲れもあったのか一時間ほどで眠りに落ちることができた。

 けれども今夜は、昨日と同じだけの時間が経ってもまったく眠気が訪れる気配がない。

 寝返りを打ってみたり、無駄だとわかっていても頭の中で羊を数えてみたりしてみたが、やはり効果はない。

 また深く息を吐き、むくりと半身を起こす。

 ……水でも飲もうかな。
 部屋を出るとスマホを明かり代わりにぺたぺたと廊下を裸足で歩き、暗いリビングからキッチンへと抜けた。

 私の後しばらくして朔夜さんも隣の寝室に入ったようだから、彼はすでに眠っているはずだ。
 なるべく音をたてないよう注意しつつ、冷蔵庫から出したてのミネラルウォーターをグラスで一杯分飲み干す。

 冷たい水で喉が潤ったら、先ほどまであったどうしようもない息苦しさがほんの少し薄れた気がした。
 換気扇の照明だけがぼんやりと浮かび上がらせる暗いリビングを、ぐるり見渡す。

 ……あのソファ、寝心地良さそうだなあ。

 場所を変えたら、気分転換になって眠れたりするだろうか。
 朝は朔夜さんより早く起きれば、ここで寝たことはバレないだろうし。

 前に住んでいたマンションはリビングこそ兄との思い出ばかりが浮かんでつらかったけれど、ここはそうじゃない。

 冷静に考えれば家主への遠慮が先立つはずが、睡眠が足りていない鈍い頭にはとてもいい考えに思えて。グラスを洗って片付けた私はさっそく部屋に戻り、掛け布団をよいしょと持ち上げた。

 そうして再びリビングへとやって来るとその布団をソファへと落とし、即席の寝床へと潜り込む。
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