エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない~プラトニックな関係はここまでです~
 兄と朔夜さんは大学時代の友人であり、兄は当時からよく自宅に朔夜さんを招いていた。

 その場合はたいてい、仕事が忙しかった両親が帰って来る前に、私の手料理を三人で一緒に食べるのが定番で。
 両親を亡くしてからも私たち兄妹がふたり暮らしするマンションへと場所は変われど、たまの食事会は恒例になっていたのだ。

 底抜けに明るい兄と、そんな兄をたまに本気で鬱陶しそうにあしらいつつもなんだかんだと相手になってくれる朔夜さんとともに囲む食卓は楽しく、私にとってかけがえのない時間だった。
 だけどその大好きなひとときは、二度とやってこない。兄の死によって永遠に奪われてしまったあの空間に、あの時間に──もう何度、戻りたいと思ったかわからない。

 突然兄を喪って呆然としていた私がなんとか今日までやってこれたのは、ほかでもない朔夜さんのおかげだ。

 ささやかだけどきちんと葬儀をしてあげられたのも、あらゆる機関への届け出や財産の整理をなんとかこなせたのも、全部、朔夜さんがサポートしてくれたから。

 もはや言葉では表せないほど、私は彼に心から感謝しているのだ。


『陽葵は知人が多いから……みんながきちんとお別れできる場を、しっかり用意しよう』


 泣きじゃくってボロボロの私の背中を優しくさすりながら、朔夜さんは自らも悲痛な面持ちでそう話した。

 彼の言葉通り、私たちが借りた小さな葬儀場は兄に別れを告げにきた弔問客が後をたたず、悲しみだけに浸って涙を流している暇もなかった。

 朔夜さんは『自分が言い出したことだから』と、結局葬儀の費用もほとんどまかなってくれて……本当に私は、彼に頭が上がらない。


「……ちょうどいいわ。陽咲ちゃん、それに秋月さんにも、聞いてもらいたい話があるの」


 会話が途切れたタイミングで切り出した歌子さんに、私と朔夜さんそれぞれが視線を向けた。
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