悪役令嬢だったので正直に王子に好みじゃないと伝えた結果
 あの日から、丁度二年経った。
 そんな今日思うのは、今のアルバートは確実に乙女ゲームでの彼とは違う道を歩んでいるということだ。
 アルバートが私のお見舞いに来た日、叫びながら椅子から立ち上がった彼は挨拶もそこそこに急いで王宮に帰っていった。
 そして何と、翌日に本当に『主要都市と経済 最新版』の要約を持ってきたのだ。
 しかも、以来、私に要約と本をセットでプレゼントしてくれるようになっている。
 もっと言えば、その要約はいつだってアルバートの直筆だった。つまり、ちゃんと彼が書いたものだ。伊達に長い付き合いをしていない、似せられた代筆と本物の見分けくらいつく。
 本の要約を始めたことの他にも、アルバートが勉強熱心になったという噂を聞いている。
 加えて、ここ最近は慈善活動にも力を入れ始めたようで、平民からの人気も高くなっている。これも本来のゲーム開始時点ではなかった評価だ。
 私の方も、アルバートを()きつけたからには自分も努力せねばなるまいと頑張りましたとも。王妃教育もしっかりこなし、ゲーム設定通りの優秀令嬢になりましたとも。この時点では名実ともに婚約者ですから。
 婚約者と言えば……私たちの世間での評判は「お似合い」らしい。
 これも本来のゲーム開始時点ではなかった評判だ。

「セレスティア、迎えに来たよ」

 外出の支度を終え自室から階下に降りた私を呼んだのは、笑顔が(まぶ)しいアルバート。スパダリにジョブチェンジ済みの私の婚約者。
 正直に言おう。スパダリにジョブチェンジした今の彼は大好きです。現金だって? 知ってる。華麗に手のひら返ししましたが何か?
 エスコートに差し出されたアルバートの手を取って、一緒に玄関を出て彼が用意した馬車まで歩く。その間に、私はそっと彼の横顔を盗み見た。
 私はまんまと彼に恋してしまった。けれど、結局のところアルバートの好みってヒロインのルルなのだと思う。だって、私と違ってアルバートの中身はアルバートのままなのだし。
 こうして上辺では政略結婚の相手に優しくする技術を身につけても、そのうち婚約解消したくなることには変わりないのでは。
 そう考えた私の懸念は当たりだったようだ。

「……アルバート殿下?」

 今日の目的地であった仕立屋にともに入り、店内を見て回っていたとき、私はその異変に気づいた。
 先程からアルバートは、どう見てもセレスティア用ではなさそうな明るい色合いのドレスを目で追っていた。
 私の家――オルレス公爵家の紋章は黒色。その関係で、私を含めて家人は全員暗めの色でまとめた服装をしている。幼い頃から我が家に出入りしているアルバートが、それを知らないはずがない。
 アルバートは一人っ子なので、姉妹のドレスを見ていたなんてオチもつかない。だからそういった態度は、私と同じ年頃の女性を想っているのではないかと(かん)()りたくもなる。そして今の彼なら、「好みの女性と結婚したい」という()(まま)も難なく通ってしまうに違いない。
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