エリート会長は虐げられ秘書だけを一途に溺愛する

 
 自宅の鍵を回すと、違和感を覚えた。と同時に、まさか、という思いが駆け巡っていく。
 扉の先、玄関には真っ赤なハイヒール。私では履けないようなものを、あの人は簡単に履いてみせる。
「おかえりなさい、杏子ちゃん」
「……美代さん、ただいま、です」
 出会ったときから変わらない美貌。妻をなくした父が惚れてしまうのも頷ける。そんな父も五年前に交通事故で亡くなってから、継母である美代さんと二人で暮らした時期もあった。今は互いに部屋を借りて別々で暮らしているが、交流は続いている。
「あの、美代さん……どうして鍵を?」
「え~? 杏子ちゃんが前に合鍵を渡してくれたじゃない」
 そんな記憶はない。この部屋には何度か来ていたから、もしかしたらそのタイミングで合鍵を見つけられていたのかもしれない。
「ご飯まだでしょう? 用意しておいたの」
 食卓に並んでいるのは、デパ地下で買ってきた高級お惣菜。ここにあるだけでおそらく一万円は超えているだろう。これだけの量を二人で食べられるはずもない。
 昔から美代さんは、気になったものはすぐに手にする人だった。「損したくないでしょ」そういって、片っ端から買いそれで満足してしまう。おそらくこれも、美代さんは食べない。
「……ありがとうございます。お腹空いてたんです」
「そうでしょう? あ、お金も振り込んでくれてありがとう」
 毎月、美代さんには十万円を振り込んでいる。
 父を亡くしたときも、ギリギリ成人を超えていたし、一人で生きていこうと思えば生きていけた。
 それでも大学を卒業するまでは私の保護者になるといってくれた美代さんに甘えて、その後とも一緒には暮らしていたけれど……
「それでね、杏子ちゃんにお願いがあるのよ」
「……お金、足りませんでしたか?」
「話が早くて助かるわ! 今月は支払いが思ってたよりも多かったみたい。変なことには使ってないのよ? でもほら、病院代とか高いから」
 出会ったときから、美代さんのお金の使い方は激しかった。
 主にそれは美容代へと流れていき、足りなくなればこうして催促される。
「……今月は少し厳しいんです。来月にはボーナスが入るので、そのときまで待っててもらえませんか?」
「それじゃあ遅いのよ。家だって水道とか電気も止められちゃうし」
「でも……」
 今までの貯金も、なにかと美代さんに渡してきた。
 お金が足りなくなったと言われれば、お願いされた金額を渡してきたつもりだけど、だんだん要求される金額が大きくなっていた。
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