エリート会長は虐げられ秘書だけを一途に溺愛する
「杏子ちゃんしか頼れないのよ。家族なんだから、助け合って生きていくのは当然でしょう? 私だって、ずっと杏子ちゃんのお世話をしてきたんだから」
美代さんが父と結婚したのは私が高校2年生のときだった。
もともと父は口数が多い人ではなかったから、どちらかというと干渉されずに過ごしてきた。美代さんは、たまにご飯を作ってくれたけど、ほとんど家を空けていたから、一緒に過ごした思い出は少ないほうかもしれない。
「家族なんだから」
それが美代さんの口癖で、父が亡くなってからは、私もそうしないといけないんだって思うようにしてきたけど。
「美代さん、今回は本当に……」
「裏切るの?」
底冷えしそうな声。美代さんが私を軽蔑するように見ていた。
「まさか、私を裏切って自分だけいい思いをするつもりなの?」
「そ、そんなことは思ってないです……ただ、今日振り込んだ金額で精一杯で……」
「いい会社入ってるんだから、給料はいいはずでしょう? だったら毎月の金額をもっと増やして。あれだけじゃ正直、生活していけないのよ」
これ以上増やすことはできない。それをどう伝えるべきか悩めば、次々と責め立てられる言葉が飛ぶ。
「ねえ、私が杏子ちゃんからお金を無心してるって思ってるの? あなたのお父さんが最期まで幸せに過ごせたのは誰のおかげなの? 早くに妻を失って、生きる希望を失ってた人が、交通事故とはいえ残りの人生を笑ってられたのは私の力があってこそでしょう」
堪えなければいけない。この人は、唯一の家族。たとえ血の繋がりはなかったとしても、大切にしないと。
「あなたにはお父さんを幸せにすることはできなかった。ならせめて、私を幸せにすることがあなたの責任なんじゃないの? その責任を果たさせてあげようとしてるのよ私は」
正論だ。私は自分の父を笑顔にすることはできなかった。
母が亡くなり、父は私を育てるためだけに身を粉にして働き続けてくれていた。好きだったお酒もやめたことで、人生に楽しみなんてなかったはずだ。
しかも一度は会社をクビになり、別の会社で再就職をしている。建設業とだけは知っていたが、その頃からは以前にも増して生気を失っていたように見えた。
そんなとき、父は美代さんと出会った。私に美代さんを紹介するときの父は、相変わらず口数は少なかったが、それでも恥ずかしそうにしていたのが印象的で、心から安心した。
よかった、お父さんはこれで幸せになれる、そう本気で思えた。
美代さんといることで笑顔を取り戻すようになった。嬉しかった反面、申し訳なかった。私では、父を笑顔にすることはできなかったと痛感させられるからだ。
それでも、今まで頑張ってきてくれたのだから幸せになってほしい。そう本気で思っていたのに、父は事故で亡くなった。
残された家族はもう、美代さんしかいない。なら、今は美代さんを大事にするべきなのだろう。
それなら受け入れるしか──
「わかり……」
「わからないな」
そのとき、玄関の扉が勢いよく開く。このマンションには不釣り合いな格好を身に纏ったその人は、私を見て首を傾げた。
美代さんが父と結婚したのは私が高校2年生のときだった。
もともと父は口数が多い人ではなかったから、どちらかというと干渉されずに過ごしてきた。美代さんは、たまにご飯を作ってくれたけど、ほとんど家を空けていたから、一緒に過ごした思い出は少ないほうかもしれない。
「家族なんだから」
それが美代さんの口癖で、父が亡くなってからは、私もそうしないといけないんだって思うようにしてきたけど。
「美代さん、今回は本当に……」
「裏切るの?」
底冷えしそうな声。美代さんが私を軽蔑するように見ていた。
「まさか、私を裏切って自分だけいい思いをするつもりなの?」
「そ、そんなことは思ってないです……ただ、今日振り込んだ金額で精一杯で……」
「いい会社入ってるんだから、給料はいいはずでしょう? だったら毎月の金額をもっと増やして。あれだけじゃ正直、生活していけないのよ」
これ以上増やすことはできない。それをどう伝えるべきか悩めば、次々と責め立てられる言葉が飛ぶ。
「ねえ、私が杏子ちゃんからお金を無心してるって思ってるの? あなたのお父さんが最期まで幸せに過ごせたのは誰のおかげなの? 早くに妻を失って、生きる希望を失ってた人が、交通事故とはいえ残りの人生を笑ってられたのは私の力があってこそでしょう」
堪えなければいけない。この人は、唯一の家族。たとえ血の繋がりはなかったとしても、大切にしないと。
「あなたにはお父さんを幸せにすることはできなかった。ならせめて、私を幸せにすることがあなたの責任なんじゃないの? その責任を果たさせてあげようとしてるのよ私は」
正論だ。私は自分の父を笑顔にすることはできなかった。
母が亡くなり、父は私を育てるためだけに身を粉にして働き続けてくれていた。好きだったお酒もやめたことで、人生に楽しみなんてなかったはずだ。
しかも一度は会社をクビになり、別の会社で再就職をしている。建設業とだけは知っていたが、その頃からは以前にも増して生気を失っていたように見えた。
そんなとき、父は美代さんと出会った。私に美代さんを紹介するときの父は、相変わらず口数は少なかったが、それでも恥ずかしそうにしていたのが印象的で、心から安心した。
よかった、お父さんはこれで幸せになれる、そう本気で思えた。
美代さんといることで笑顔を取り戻すようになった。嬉しかった反面、申し訳なかった。私では、父を笑顔にすることはできなかったと痛感させられるからだ。
それでも、今まで頑張ってきてくれたのだから幸せになってほしい。そう本気で思っていたのに、父は事故で亡くなった。
残された家族はもう、美代さんしかいない。なら、今は美代さんを大事にするべきなのだろう。
それなら受け入れるしか──
「わかり……」
「わからないな」
そのとき、玄関の扉が勢いよく開く。このマンションには不釣り合いな格好を身に纏ったその人は、私を見て首を傾げた。