初恋シンドローム
第1章 再会
「風ちゃん」
優しくて心地いい彼の声が「わたし」の心に春を運ぶ。
「わ……」
顔を上げると、ふわりと頭に何かが乗せられた。
シロツメクサでできた花かんむりだ。
「ありがとう」
「うん。おひめさまみたいでかわいい」
そう言われ、この間ふたりで読んだ絵本を思い出す。
彼の瞳にはそんなふうに映っているのか、と少し照れくさくなる。
“お姫さま”と言うには、ドレスと王子さまが足りないけれど。
そのとき、彼が「わたし」の左手をとって握り締めた。
花が開くように柔らかく笑う。
「風ちゃん、ぼくのおよめさんになって」
今度は頭の中に純白のウェディングドレスが浮かんだ。
彼が王子さまになってくれる、ということだろうか。
心臓がどきどきした。
世界の輪郭がきらめいて、あたたかい光で満ちていく。
「おとなになったら、結婚しよう」
薬指にシロツメクサの指輪がはめられる。
宝石のついた本物の指輪じゃなくても、ほかの何より輝いて見えた。
「うん、約束……!」
────それから色々あって、家の事情で引っ越すことになった彼は、最後に「わたし」のところへ来て言った。
「ぜったい迎えにいくから」
いつか、きっとまた会える。
そんなささやかな希望を胸に、差し出された小指に自分のそれを絡めて頷いた。
「待ってる」
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