初恋シンドローム
第2章 疑惑
放課後、ひとりで校門を潜る。
大和くんは担任と面談があるだとかで職員室に呼び出されていて、悠真には何となく気後れして声をかけられなかった。
何気なく足元の影を見下ろしたとき、ふと横からもうひとつの影が揺れて伸びてくる。
はっとして顔を上げた。
「悠真」
隣に並んだ彼の姿を認め、驚きながらその名を呼ぶ。
彼の方から来てくれるなんて意外だったけれど、何だかほっとした。
「何かあった?」
普段と変わらない声色で尋ねた悠真は、ちらりと窺うような視線を寄越す。
「ちょっと元気ない」
「そ、そんなことないよ! ……何か色々気持ちが追いつかなくて、混乱してるだけ」
困ったように苦く笑いつつそう答えた。
自分のあるべき姿も大和くんの望むところも分かっているのだけれど、心の部分がずっと置き去りになっている。
それを無視して彼を優先できるほど、初恋に一辺倒になれないでいる。
「……三枝に何か言われた?」
心臓を鷲掴みにされた気がした。
たまに、悠真は心が読めるんじゃないかと思うほど鋭いときがある。
「付き合って欲しい、って……」
告白されたことを隠し通せる気がしなくて、早々に観念した。
悠真だって薄々は、どころか明確に、大和くんの好意に気づいていただろう。
果たして彼は驚かなかった。
「それだけ?」
「……結婚を前提に、とも言われた」
戸惑いはしたけれど、予想の範囲内でもあった。
あの約束が根にあるなら、その意思はいまも変わっていないはずだから。
「なんて、答えたの」
彼の声にやや緊張が滲んだように思えた。
「いまはよく分からない、って正直に伝えた」
「……そう。曖昧だね」
「うん……でも本当に分からないの。大和くんにそう言われて、嬉しかったのかどうかさえ」
不思議と考えるまでもなく、悠真には率直な気持ちを打ち明けていた。
あのとき確かに心は揺れた。
だけど、単純に“幸せ”だけで満たされたような実感はなかった。
いまの大和くんのことを全然知らない、と告げたのは本心で、だからこそ素直に頷けないのかもしれなかった。
手がかりになるはずの過去まで曖昧で、不安や罪悪感ばかりが膨らんでいくのだ。
唯一覚えているあの一場面と照らし合わせても、彼はどこか、別人みたいで────。
「三枝、それでも諦めなかったでしょ」
「……うん。デートに誘われた」