初恋シンドローム

 春の陽だまり。
 シロツメクサの花かんむりと指輪。
 頬を染めて幸せそうに笑い合う姿。

『おとなになったら、結婚しよう』

『うん、約束……!』

 切り取ったようにその場面が鮮明に蘇り、気づいたら頬に熱が宿っていた。

(いまも……有効、なの?)

 瞳が揺らぐのを自覚しながら彼を見返したとき、ふっと横に気配を感じた。

「近い」

 びくりと肩が跳ねる。
 いつの間にかそばに立っていた悠真が、普段通りの淡々とした口調で言う。

「悠真」

「……いつまでそうしてんの」

「え? わっ、本当だ」

 指摘されて初めて、大和くんに手を握られたままだということに気がついた。

 驚くほど体温や感触が馴染んでいたせいか、それ以上に衝撃的なことがあったからか、完全に意識の外側にあった。

 慌てて手を引こうとしたけれど、なぜだか逆に力を込めて阻まれた。

 大和くんはあの表面的な微笑を浮かべたかと思うと、まじまじと悠真を眺めて首を傾げる。

「悠真……って、もしかして越智(おち)悠真?」

「だったらなに。早く離して」

「え? やだ。風ちゃんは俺のだし、何できみの言うこと聞かなきゃなんないの?」

 ふたりが静かな火花を散らしているように感じられて、わたしは唖然としてしまいながら何も言えないでいた。

(な、なにこの状況……)

 困惑しながら視線を行き来させていると、ふいに悠真が動いた。

 ぐい、とわたしの腕を引き、大和くんから強引に引き剥がす。
 するりと彼の手が離れると、重なっていた体温が消えた。

「残念」

 くす、と大和くんが笑う。
 冗談にしても本気にしても、随分と余裕そうな態度だった。

「……触んないで」

 対して悠真は珍しく苛立っているのか、不機嫌なのが目に見えて分かる。

 前面に押し出した警戒心を隠そうともしないで、こんなに険しい表情をしているところは初めて見た。

「どうして?」

「どうしても」

「へぇ、きみがそんなこと言うなんて。……きみってさ、一匹狼っていうかひとりぼっちっていうか、誰にも無関心って感じじゃなかったっけ?」

「おまえは誰に対してもいい顔してるぺらぺらな人気者だったよね。俺のこと覚えてるなんて意外」

 ぴくりと大和くんの眉が動いた。
 お互いに遠慮も容赦もないもの言いだ。

 喧嘩はして欲しくないけれど、わたしが口を挟む隙もなく、成り行きを見守ることしかできない。

「……あ、もしかして」

 何かをひらめいたような大和くんが、わざとらしい笑みを浮かべる。

「好きなの? 風ちゃんのこと」
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