初恋御曹司と失恋部下の、一夜から始まる甘い恋
伊藤さんの気持ちは嬉しかったけど、私はどうしても恋愛感情は抱けなかった。
私ごときが、とは思うけどこれが嘘偽りのない正直な思いだ。
「すみません。伊藤さんの気持ちは嬉しかったんですけど、私はそれに応えることは出来ません」
誠心誠意、自分の気持ちを伝えて頭を下げた。
「そっか。やっぱり駄目だったか。ご飯に誘っても絶対に二人では会おうとしてくれなかったし、見込みはないと思ってたよ」
「すみ……」
「もう謝らないで。羽山さんからその言葉は聞きたくないし、これ以上困らせたくないからね。この一週間、悩ませてごめん。申し訳ないんだけど、俺の告白は忘れてほしい。君のいい同僚でいたいから」
そう言って笑顔を見せる伊藤さんに私は頷いた。
「じゃあ、俺は帰るね」
伊藤さんは明るく笑って席を立つ。
これだけは伝えなきゃと、私は口を開いた。
「あのっ、私のことを好きになってくれてありがとうございました。伊藤さんのことは、先輩として尊敬しているのでこれからもよろしくお願いします」
「もちろんだよ。じゃあ、先輩だからここは奢ってあげる。また会社で」
そう言って伊藤さんは私の分のコーヒー代も支払ってくれて店を出て行った。
私のことを気遣って大人の振る舞いをしてくれた伊藤さんは本当に優しい人だ。
氷の解けたお冷やを一口飲み、ゆっくりと立ち上がって店を出た。