拾った相手は冷徹非道と呼ばれている暴君でした
「エレナ今日はありがとうね。お礼に魚を持って行ってってくれよ」
「そんな、私の方こそお世話になりっぱなしですよ。お力になれる事があればいつでも言ってください!」
アルがいなくなってから一年と少し。エレナは以前と変わらない生活をしていた。
いや、一つだけ変わったことがある。
どこから知ったのか、エレナの栄養ドリンクを買う常連さんができたのだ。
ポニーテールをした綺麗な女の人で、毎週のようにやって来ては買ってくれる。
お代にと、毎回袋いっぱいの金貨を差し出されるのはちょっと困るのだけれど……
「アメリさんこんにちは」
そんなことを考えていたせいか、家の前には何故か常連さんがいた。
つい三日ほど前に来たばかりなのに、どうしたのだろうとエレナは首を傾げる。
今日の常連さんは真っ白の服に剣を携えていて、まるで騎士のようでとてもかっこ良かった。
「そちらの方は……?」
「アルバート・オーウェンがエレナ様へご挨拶いたします。此度は私とアメリア、そしてラルフの三名がエレナ様の護衛を仰せつかいました。首都までは丁重にお連れ致しますのでご安心ください」
「??」
アメリの隣にいた二人の男へエレナが目を向ければ、怖面の男が一歩踏み出しながら挨拶してくれる。けれどエレナは一体何の話をしているのか全くついていけず、頭の中は疑問でいっぱいだった。
アメリさんじゃなく、アメリアさん?それに首都?護衛?どういうこと?
「先程から何のお話か分からないのですが、もしかして人違いではありませんか?」
「いいえ、エレナ様でお間違えございません」
「そうですか……あの、それは必ず行かなければならないのですか?そもそも私が行く理由も分からないのですが」
あまり家を長く空けたくなかった。作りかけの薬があるし、何よりアルが戻ってくるかもしれないから。
家を空けている間にすれ違いにはなりたくないのだ。
「はい、陛下直々のお呼び出しですので必ず行かなければなりません」
「……へ、陛下から!?」
全く思いつきもしなかった理由にエレナはぎょっと目を剥いた。
――アーノルド・デ・ベルンハルト
ガルティア帝国の現皇帝で、親兄弟を皆殺しにしただけではなく、自分に反発する者たちも問答無用で殺すことから、血塗られた玉座に座る冷徹非道な『暴君』と言われている。
そんな皇帝陛下からなぜ呼び出しがかかったのか、エレナには検討もつかなかった。