冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
彼は目を細め、慈悲深い眼差しを偽装していた。
嘘だと分かっているのに、胸がときめく。
雑念を払わなくてはと言い聞かせ、香蓮は近づいてくる口元だけを見つめ続けた。
(私。この笑顔を独り占めしたかったんだわ……)
誰にも明かしたことがないが、香蓮は玲志の口元がとても好きだ。
桜色の薄い唇は口角がきゅっと上がっており、うっすらとえくぼが刻まれるところが、愛おしかった。
同時に心をかき乱され、胸を切なくさせる彼の笑み。
何度反芻したか分からない。今に始まったことではなく、それはもう、何年も前からだ。
「ん……」
胸の痛みを感じながら、キスを受け入れる。
こちらの様子を固唾をのんで見つめていた参列者は、一斉に温かな拍手を彼らに送った。
だれひとり、ふたりの嘘には気づいてはいない。
そこに愛の欠片さえもなく、〝復讐〟で結ばれているだけだなんて。
香蓮は複雑な心持で、離れていく唇を目で追った。
顔を傾けた玲志は、かすかに息をあげた彼女の耳元でくすりと笑う。
「これじゃ昨日の意味がないじゃないか、香蓮」
「れいし、さん……」
「ちゃんと思い出せ」
玲志は昏い声で囁くと、骨ばった手で彼女の頬を引き寄せ一度目よりも甘美な口づけを落とした。
嘘だと分かっているのに、胸がときめく。
雑念を払わなくてはと言い聞かせ、香蓮は近づいてくる口元だけを見つめ続けた。
(私。この笑顔を独り占めしたかったんだわ……)
誰にも明かしたことがないが、香蓮は玲志の口元がとても好きだ。
桜色の薄い唇は口角がきゅっと上がっており、うっすらとえくぼが刻まれるところが、愛おしかった。
同時に心をかき乱され、胸を切なくさせる彼の笑み。
何度反芻したか分からない。今に始まったことではなく、それはもう、何年も前からだ。
「ん……」
胸の痛みを感じながら、キスを受け入れる。
こちらの様子を固唾をのんで見つめていた参列者は、一斉に温かな拍手を彼らに送った。
だれひとり、ふたりの嘘には気づいてはいない。
そこに愛の欠片さえもなく、〝復讐〟で結ばれているだけだなんて。
香蓮は複雑な心持で、離れていく唇を目で追った。
顔を傾けた玲志は、かすかに息をあげた彼女の耳元でくすりと笑う。
「これじゃ昨日の意味がないじゃないか、香蓮」
「れいし、さん……」
「ちゃんと思い出せ」
玲志は昏い声で囁くと、骨ばった手で彼女の頬を引き寄せ一度目よりも甘美な口づけを落とした。