冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
同居生活初日だというのに、香蓮は夫が何時に帰ってくるのかすら知らない。
そう――あの日から玲志の香蓮への態度は、なにひとつ変わっていないのだ。
◆ ◆ ◆
玲志と再会したその日のうちに、ふたりは婚姻関係を結んだ。
その後、妻である香蓮は蚊帳の外。達夫と玲志の間でどんどん挙式や支援の取り決めが行われていく。
香蓮が次に玲志と顔を合わせたのは、再会した一か月後。日本料亭で行われた結納の日だった。
『初めまして。日向玲志です。この度、香蓮さんと結婚することになりました』
『ま、まぁ……』
玲志は、由梨枝、愛理と初対面を果たす。
ふたりが玲志に、一瞬にして心を奪われたのは香蓮から見ても明白だった。
この日の彼は一段と美麗だったから無理もない。
三つ揃いのダークスーツがとても似合っており知的な印象で、さらに前髪をかき上げてセットしているせいか、香蓮は前回以上に彼が凛々しく見えた。
だが一方で、“嘘の誠実さ”を表現していることにも気づいていた。
『主人から玲志さんのお話は常々聞いておりますわ。私のことも気を遣ってくださっているみたいで』
座敷に座るや否や、普段冷静沈着な由梨枝は饒舌になり、自己主張が強い愛理は顔を赤くして小さくなっている。
『香蓮はもう結婚適齢期なのに、浮ついた話が本当になかったんですの。だからお見合いのお話がきてこれはもう逃すまいとね。親心ってやつですわ』
『そうでしたか』
由梨枝の言葉に胸が軋む。
(そんなの、うそ。私が邪魔だから、お母さんたちは藤山さまに売っただけなのに)