冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い

 背後から聞こえてきた声に足を止め後ろを振り向くと、サラリーマン風の若い男性が笑顔で彼女に向かって走ってきた。

 「どうぞ! これお姉さんのですよね?」

 「あら……いつの間に落としたんだろう。ありがとうございます」

 香蓮はレースで縁どられたベビーピンクのハンカチを受け取り、笑顔で礼をする。

 (よかった。このハンカチ、お気に入りだったから)

 一方、彼女の上品な仕草に見とれていた男性ははっと我に返り、とっさに笑顔を作る。

 「いけない。俺、あまりにもお姉さんが綺麗で見入ってしまいました」

 「えっ……⁉」

 褒められ慣れていない香蓮はボンッと顔を赤くし、照れ臭そうに地面に視線を落とした。

 「い、いえ私なんて全然。あの……ハンカチ、ありがとうございました」

 「いえいえ。おいくつですか? まだ大学生かな?」

 香蓮が男性慣れしていないことに気づいた男性は、さっそく彼女を口説きにかかる。

 そんなこともつゆ知らず、香蓮は男性の質問にぼそぼそと返事を返す。

 「お住まいは? このあたり?」

 「ああえっと……そうですね。近くに住んで――……」

 「香蓮」
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