冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
(玲志さんには十七時に退勤していいって言われてるけど、あともう少しだけ残りたいな)
明後日にはひとりで実践をすることになっている。
出来る限り今日教わった内容を叩きこんで、スムーズに業務に当たりたい。
だが長時間残業するのも、玲志の厚意を踏みにじることになると思った香蓮は、三十分間だけと決めて再び椅子に座った。
「まだ、玲志さんも帰ってきていないし。少しだけ……」
玲志は午前中外に出たきり、一度も戻ってきていない。
立花が言うには現場視察を何件もこなし、夕方に社外会議があるのだという。
多忙な彼の仕事を少しでも減らすことが自分の役割だと言い聞かせ、香蓮は気合を入れて立花から教わった業務を振り返り、取引先の名前を頭に叩き込んだ。
「香蓮。香蓮……」
遠くから聞こえていた声が耳の傍ではっきりと聞こえ、彼女の意識が鮮明になった。
「香蓮」
「れ、玲志さん!?」
彼の声だと分かった途端、机に伏せていた上半身が勢いよく起き上がる。
香蓮を覗き込んでいた端正な顔は少し呆れていた。
「もうそろそろ起きろ、香蓮」