冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
すっかり日が暮れた十七時半。
大ホールにやって来た香蓮と玲志はピアノの演奏会を鑑賞するため、席に着席する。
(朝からデートして、なんだかあっという間だったな)
控えめな性格の香蓮は、結局玲志が求める“わがまま”を言うことはできなかった。
だが、最後の最後で今日の初デートの思い出が欲しくなった香蓮は、大ホールの売店で、ポストカードやレターセットなどを玲志に買ってもらった。
玲志はもっと他にないのかと呆れた顔だったが、いくら安価でも彼女がほしいものがそれだから仕方がない。
「香蓮、寝てしまったら起こしてくれるか」
「えっ……」
突然隣から聞こえてきた玲志らしからぬセリフに、香蓮は思わず驚きの声を上げた。
「玲志さんに限って、居眠りすることなんてあるんですか?」
「俺をなんだと思ってるんだ? 人間なんだから睡眠欲に抗えないときもあるよ」
「ふふっ、たしかにそうですよね」
こうして軽い会話ができるようになったのも、今日一日一緒に過ごしたからだ。
確実に縮まっていく距離に、香蓮の心は温かくなっていく。
「昨日はなんだか寝付けなくて。ここに座ったら眠くなってきた」