叶わない恋の秘めごと~堅物上司の好きな人~
第一章
冷静になれ、私。よく思い出すんだ。
どうして憧れの新堂快斗《しんどうかいと》さんと、こんなキングサイズのベッドの上に、しかも裸でいるのか。頭の隅にある昨夜の記憶を引っ張り出し、紡いでいく。
確か昨日は、会社の同僚、仲野《なかの》くんと、取引先の人たちと飲んでいた。一次会が終わり、二次会に行こうという話になったが、あまりお酒に強くない私はこれで失礼すると告げ駅に向かった。
すると、ふらふらと足元が覚束ない私の手を、取引先の男性が追いかけてきて掴んだ。
「倉田乙葉《くらたおとは》ちゃん、だっけ? 駅まで送るよ」
お酒の匂いを含んだ息で囁かれ、思わず眉間に皺が寄る。だが会社の大事な取引先の人。私は無理やり口角を上げ、丁重にお断りした。
「お気遣いありがとうございます。でも、すぐそこですし大丈夫です」
「酔ってる女の子を一人で帰らせるなんて、俺にはできないからさ」
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