叶わない恋の秘めごと~堅物上司の好きな人~
紳士的な台詞を吐いて、私を覗き込む。
さっきの一次会の話によれば、彼、松浦さんは三十二歳で独身らしい。そしてうちの匠《たくみ》建築事務所を贔屓にしてくれている大手メーカーの社員さん。
彼を嫌な気分にさせてはいけないということは、重々わかっている。だけど彼の目の奥に、親切以外の感情が孕んでいるような予感がするのは、気のせい?
「あの、本当に大丈夫ですので」
「人の親切は素直に受け取るものだよ? ほら、行こう」
そう言われると何も言えなくなる。彼を疑う私がいけないのか。まぁ駅までだしあまり拒絶するのも失礼かと思い「はい」と頷いた。
それからすぐのことだった。彼が豹変したのは。男性の親切心には裏があるのだと思い知らされた。
私は彼に肩を抱かれ、強引にホテル街へと連れ込まれていたのだ。
「あの、ここは……?」
「ちょっと疲れたから休憩していかない?」
「ご、ごめんなさい! 私、そういうのは……」
「は? 何今更純情ぶってんの。わかってて来たんでしょ。今日の飲み会だって女一人だったじゃん。好きなんだろ?」