叶わない恋の秘めごと~堅物上司の好きな人~



「気にするな。だいたいあいつにはもっとお灸を据える必要があると思っていたところだったから、ちょうどいい。それより手、見せて」

不意に手を取られ、ドキッとする。だけど新堂さんはいたって冷静で、私が怪我をしていないか確かめている。脈が速いのがバレそうで、傷のことなんかよりそっちのほうが気になる。

「怪我はないみたいだな」
「大丈夫です。ありがとうございます」

言いながら視線を上げれば、至近距離で目があった。奥二重の切れの長い目が、緊張する私を捉える。

この目、ベッドの上で見た。優しくて温かくて……。でも雄の目に変わる瞬間がある。私はその度に射抜かれて、彼に溺れた。早く夢から覚めなきゃってわかっているのに、全然覚めそうになくて怖い。見つめられると、彼になら何をされてもいいと思ってしまう。

「倉田」
「は、はい……?」

すると新堂さんは、思いがけないことを切り出した。

「行ってみるか? 桜祭り」
「え?」
「露店、好きなんだろ?」
「好き、ですけど」

キョトンとしながら言えば、新堂さんはクスッと笑い、私の頭をポンと撫でた。

「じゃあ決まり。日曜日、お前の家まで迎えに行く」


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