叶わない恋の秘めごと~堅物上司の好きな人~
そんなことを考えながらグラスを洗っていると、背後から声をかけられた。その声にハッとしながら振り返る。
「新堂さん……」
「手伝う」
「あ、ありがとうございます」
「いつも悪いな」
「いえ、そんな……」
うわ、どうしよう。こんな狭い空間に二人きり。受け入れてしまったものの、気まずい。何を話していいか思いつかず、カチャカチャと食器の音だけが響く。何か話題を探さなきゃ。そう思っていると、新堂さんの方が先に口火を切った。
「……桜、綺麗だったな」
「はい、土日が満開らしいですね。私、露店巡りとか好きなんですよね」
思いのほか普通にしゃべれてる。よかった。
「露店か。倉田らしいな」
「あ、今笑いましたね。子どもっぽいってバカにしたでしょ」
「いや。可愛いなって思った」
えっ? 今、可愛いって言った?
「きゃっ」
つい動揺してしまい、手が滑ってグラスを落としてしまった。パリンと嫌な音が響く。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。でも仲野くんのグラスが欠けてしまいました」
グラスを持ち上げ見せると、新堂さんは納得したように頷く。