【完結】転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
――中二の夏。部活の練習中に右足を痛めた俺は、約二ヵ月を棒に振った。
きっかけは覚えていないが、最初は今と同じくらいの痛みだった。
けれどバカだった俺は無理をして悪化させ、チームメイト全員に迷惑をかけたのだ。
あのとき俺は、二度と無理をしないと学んだのに……。
「……今は、そんなこと言ってる場合じゃねぇんだよな」
正直、足は痛い。すごく痛い。
このまま負荷をかけ続ければ、あのときの二の舞になるのは確実だ。
でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。――そもそも、俺の足が使えなくなったところで困る奴なんて誰もいないわけだし。
それに魔法があるこの世界なら、その魔法の恩恵に預かることさえできれれば、怪我なんて一瞬で治してもらえるわけで……。
つまり、こんなことを考えること自体が不毛。そんなことはわかってる。
――でも、だからこそ。
「俺……何でこんなところにいるんだろうな、ユリシーズ」
リリアーナが心配だった。自分がラスボスにならないために現場を見ておきたかった。
そう思って付いてきた末の、この結果。
あっさりとシナリオの外側に放り出され、何もできずに逃げ帰る自分。
役立たずなだけならまだいい。
それがまさかユリシーズに怪我をさせるって……俺、いったい何やってるんだよ。こんなことになるなら、俺が怪我した方が百倍マシだった。
情けない自分に……本当に腹が立つ。
――だが、今はそんなことを考えている場合じゃないということもわかっている。
俺が今やらなければならないことは、自分を責めることではない。ユリシーズを守ることだ。
それだけは絶対に、絶対に忘れてはならない。
(しっかりしろ、俺。今はユリシーズのことだけ考えろ)
ゆっくりと肺から息を吐きだして――今度は、大きく吸い込む。
空気は悪いが、それでも、脳に目一杯の酸素を送り込む。
そして気合いを入れ直し、脳内で出口までの距離をはじき出した。