first date
「わっ」

 私は驚いて備え付けの手すりにつかまった。

「大丈夫だよ」

 彼は自然な身のこなしで私の隣に移り、私の肩を抱いた。ふわりと彼の香水が香る。一瞬のことに身体が強張ってしまった。

「やだな、そんなに緊張しないでよ」

「し、してません!」

 彼は私の肩をさすってから私の頭をポンポンと撫でた。

「き、急にそんなことされたらドキドキするじゃないですか」

「ドキドキしてるんだ?」

「だから、こういうの、慣れてないので…」

 彼は私を安心させるために隣に来たのだろうが、私の心は穏やかではない。相変わらず風でゴンドラは揺れているし、彼は意地悪く笑っている。

「ねえねえ、あのさぁ…」

「はい?」

 彼は少し言い淀んで次の言葉を紡いだ。

「また、デートしてくれる?」

「それは、小説のためですか?」

「えっとねぇ…。違うよって言ったら?」

「え?」

 私は彼の意図することがなんなのか分からず返答に戸惑った。

「俺さ、絢ちゃん自身に興味が湧いちゃったんだ。ダメ?」

 彼は私の顔を覗きこみ、小首を傾げて尋ねた。そんなふうに聞かれたら断れない。

「ダメじゃ、ないです…」

「やった」

 彼は嬉しそうに笑って私の肩を強く抱いた。景色を楽しむ余裕などなく、ただすぐそばに座る彼の息遣いと体温を感じながら胸の鼓動をおさえた。
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