乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
本音に聞こえた。戦友の叶わなかった思いをリスペクトして、だけど、あたしを譲れないって。そこは踏み越えさせない、って。

「オレも脚の再手術する」

顔を上げた。いきなりだったから戸惑う。定期検査は異常なかったんじゃ。

ぶつかった目が甘く弧を描いた。

「その前にオヤジに孫を抱かせて、紗江にもっとオレを見直させるけどさ」

冗談をまぜながらあたしの髪を梳く指先。

「動かなくなるのを先延ばしするぐらいは、どーにかしてもらうよ。それがたとえ一年ぽっちでも、やらない理由がねーだろ」

たとえ手術をしても歳を重ねたら歩けなくなる可能性は高かった。もしもの時は逆に、24時間車イス生活になるかもしれなかった。

そんなのは乗り越えらんない壁でも苦労でも、なんでもないの。愛してるってそういうことだから結婚したの。

でも簡単に出せる答えじゃなかったと思う。勇気が要ったと思う、榊に負けないくらい。

「真が決めたことなら反対する理由なんかないもん」

もたれて目を閉じる。

「榊もそう言うよ、きっと」

「知ってる」

ほら。あんたが真っ直ぐこっちを見てる。

手は届かないけど、景色はちがうけど、ずっとそこにいるよね?

『当たり前だろが』

ぶっきら棒な返事が空で返った。気がした。
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