乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
名残惜しかったけど、根っこが生えて剥がれなくなっちゃう前に、腰を上げる。亞莉栖としばしお別れ。

「ユキちゃん、浮気したら泣くから!」

「これでも宮子お嬢一筋だからね。その席は空けて待ってる」

クスリ、とこぼした仕草。

「なにも心配いらないよ」

最後まで男言葉で。

手を振ったらカウンター越しに返った強かな笑みが、不安の燃えかすを蹴散らしてくれた。




すっかり暗くなった通りを走り出す車の中、あたしに膝掛けを広げながら真がふいに。

「名前決めよっか」

「この子の?どっちか分かんないよ??」

「オレの子を、“お嬢の跡目”なんて名前で呼ばれたくないしさ」

アイドル顔が凜として見えた。格好つけてるんじゃなくて、あたしの気持ちとか、父親になる意味をちゃんと自覚してる言葉だった。

出逢えたのが真じゃなかったら。遊佐真じゃなかったら臼井宮子の人生には、すがる愛もない破滅しかなかったかもしれない。哲っちゃんが瑤子ママと出逢わなかったら。

色んな『もしも』が走馬灯のように流れてった。縁があって繋がれて続いて、今がある奇跡をなんだか、じんと噛みしめる。

「うん。・・・この子への最初のプレゼントだね。家族会議する?榊も参加だからね?」

「・・・俺はいい」

「却下!」
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