乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
だってこの子の瞳にはいつだって、あたしと真とあんたが映るんだから。あたし達は三人三脚で、この子の手を引いてくんだから。

「これからあたしと真は、榊におんぶに抱っこでこの子を育ててくの。この子にとって榊は、あたしの哲っちゃんと同じでしょ」

「オヤジねぇ。俊哉には死んでも父親の座は譲れねーけど」

真がさらっと笑った。榊が立場をわきまえて言ったのは分かってた、自分の出る幕じゃないって。

「勘弁しろ。・・・若頭(かしら)と並べてんじゃねぇよ」

どっか不機嫌そうに呆れた返事が、運転席からボソッと聞こえて。

「男の子だったら漢字一文字か、ゆいちゃんとか、なっちゃんも響きが可愛いよねぇ」

「オレは『子』が付くのも好き」

「榊は?あんまり渋いのはちょっとね」

「・・・・・・」

「おじいちゃん達に忖度ナシで考えてよ?」

「・・・・・・・・・」






クリスマスの頃、瑤子ママに付き添いを頼んで母子手帳をもらいに行った。つわりは軽くなかったけど、やっぱり自分で受け取りたかった。

入学する新入生みたいな気持ちを思い出した。病院の先生や先輩ママ達に教わりながら365日、日替わりの実習授業。親に卒業はないって思う。

見た目はまだ変わってないお腹を掌で包んで、子守歌を歌うように話しかける。

外の世界には、こわいモノも綺麗じゃないモノもあるけど。

ユキちゃんにかけてもらった魔法を、今度はおかあさんがかけてあげるから。

真からもらった優しいものを残らず分けてあげるから。

いつか、切っても切れない絆で結ばれる誰かと出会えるから。

「大丈夫。信じてあきらめないでね、・・・凜ちゃん」




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