乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
“あくまで現状維持が目的で、後遺症が改善される見込みは期待できない”

担当医から、そう宣言されてたにも関わらず手術に踏み切った真の退院は、どうやらちょっと延びそうだった。

仕事と脚のことだけは、あたしを蚊帳の外に置いて詳しく話さない。妊娠してなくても、病院の付き添いや看病を承知しないのは分かってた。

強がって明るく振る舞ったら真が悲しいだろうし、嘘は下手だから黙って笑って送り出した。

やっとカサブタになった“傷”は、自然と剥がれるまで触らずにおくの。今はまだそれでいい気がする。

安定期に入って、気持ち的にも余裕が出てきた。ビデオ通話越しの真の笑い顔が、たまに作りモノなのを勘づくぐらいに。

あたしはあたしで、リンとお喋りしながら運動がてら掃除したり、実家と哲っちゃんちを行き来したり、織江さんや紗江にメッセージで近況報告したり、アドバイスもらったり。

そう言えば相澤さんとシノブさんからもご祝儀が届いてたけど、お返しどうしようってほど分厚かったっけ・・・・・・。

『具合はどうだ』

『平気、ずいぶん楽になったから』

『・・・食いたいものはあるか』

『うーん、ハンバーガー?』

気が付けばあのお父さんと、それなりに気安く話せてる自分。もちろん哲っちゃんには遠く及ばない。

初孫を抱っこしたら、あたしが生まれた時のこと教えてよ。お母さんの話を聞かせてよ。

そんな感傷が湧くのが、何だかくすぐったかった。
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