乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
君と
「さっさと帰ってくるから、心配しないで待ってな」

リビングのソファで、あたしをやんわり抱き寄せた真は頭の天辺、おでこ、鼻に口付け、唇を啄む。

「ん。ごめんね付き添いできなくて」

「大した手術でもねーしオレは平気。宮子が寂しがるとリンにうつるよ?」

甘い笑い顔が寄ってくると、ワルツを踏むみたいなキスであたしをしばらく離さなかった。

おせちもお餅も食べられなかったお正月が明け、大寒を過ぎてつわりも落ち着いてきた一月の終わり。脚の再手術を決めた真が今日からしばらく入院生活になる。

哲っちゃんとお父さんは、出産が終わってからでも遅くないって反対だったのを、首を横にふって折れなかった。

『今しかないんだよ。ただでさえ父親らしいこと出来ねーのに、リンが生まれたらオレのためにムダな時間使うヒマ、どこにあんの』

手術が成功しても、リハビリは時間と根気との闘い。どれくらい続くのかも先が見えない。結果が、なにも変わんないゼロならまだしも、最悪マイナスになるかもしれない。

それでも『今』だって決断は、言うほど簡単じゃなかったと思う。片脚のハンデと向き合うこの先の覚悟は、段違いに重くて大きかったと思う。

「リンのことは、まかせてよ。ちゃんとしっかり守るから!」

「毎日電話するからオレの声、聴かせてやって」

いたずらっぽくキスを残して、ひらと左手を振ったとき、ダウンジャンパーの袖口からオニキスのブレスレットがのぞいた。

「真のことは任せておけ」

向かい側から立ち上がった三つ揃い姿の仁兄が、慰めるようにあたしの頭に手を乗せ、ゆっくり後を追う。

毅然として迷いのない強い背中と、由里子さんのお守り。湧いた心許なさを箱に詰め込んで、精いっぱい深呼吸した。

絶対、きっと、神頼みより効きめ抜群。




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