乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
7月26日。予定日よりちょっとフライングで、もうお腹から出たいって急かされた。2785グラムの男の子。わりとけっこう前から、やんちゃ坊主な予感しかなかった。
『名前・・・、“凜”じゃねぇんだな』
出産三日目、スマホ越しにしばらくぶりの声を聴いた。
「迷ったんだけどねぇ、凛太朗にしたの。一文字もカッコいいけど、タロウって付くとなんか味があるでしょ?」
『悪くねぇよ』
「でも結局『リン』って呼んじゃうんだよ」
写真は送った。真と三人の初、親子写真を真っ先に。それから紗江と織江さん、由里子さんにも。
「おじいちゃんもお父さんも大喜びでさ。うちの息子、一ツ橋の跡目じゃないんだけどねぇ」
苦笑い。遊佐と臼井で跡目争いなんてシャレになんないし、火種になんてさせない。絶対。
『仁さんの結納が済めば、その辺も収まるんじゃねぇのか』
「あーうん、結納ね、産後が落ち着いたら決まるみたい。竹中興業のお嬢さん、バツイチって知ってた?」
『それでも仁さんが決めたんだろが』
さらっと流したつもりだったのに。見透かしたように榊は言った。
「別にバツイチがどうとかじゃないからねっ?」
『俺はなにも言ってねぇよ』
相変わらずのぶっきら棒。でも。
「仁兄が決めたんだもんね」
『・・・おう』
素直に自分に言い聞かせてた。
榊の低い相槌が聞き心地、よかった。
海の向こうにいる気がしなかった。