乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
今までだって、こっそり独りであたし達を守ってたんでしょ?心配でつい出てきちゃったんでしょ?

あたしが引き留めないなんて思ってなかったでしょ?泣き言のひとつやふたつ、覚悟してたでしょ?

「あんたがいなくちゃ、あたしは・・・っ」

声が詰まった。黒い背中は微動だにしなかった。押し込めてた思いがはち切れそうになる。榊が誰のために身を切ったか、百も千も承知なのに。

あの朝。起きたら榊はどこにもいなかった。

『行かせておやりなさい』

実家の母屋に間借りしてた部屋も綺麗に空で、おばあちゃんの静かなひと言が刺すように胸に染みた。

真が笑うのにあたしが泣けなかった。

それでもやっぱり、あんたのうんざり顔を探しちゃうの。悩んでも迷っても、楽しいし幸せだけど、足んないの。

ユキちゃんがどんな魔法かけてくれても、哲っちゃんにこれでもってくらい甘やかされても、この手を離したくないよ。

「・・・まだ戻れねぇよ、やることがある」

にぎわう雑踏の中で、榊の低い呟きだけあたしに響く。

あんたが途中で曲がんないのなんて知ってる、頑固男だもん。上着の裾を握りしめる指先に力がこもった。そのセリフ、今日で最後にしてよね。

「俺はお前のもんだろが。どこにいようがお前を助ける。・・・俺を呼べ」
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