満天の君と、純白のヒメゴトを。
「私はただ、ありふれた、普通の恋がしたいだけーー」

部屋中に満ちた陽気に湿った寂し気な音が溶けていく。

その瞬間、廊下から歓声が上がり、教室に華やいだ空気が流れ込む。喧噪の方で形成されている人だかりでは、全員が真ん中に向かって反応を示している。

「樹々瀬くん!今日の放課後空いてる?」
「もしよかったらお昼一緒に…」
「わっ今こっち見たよね!?」
「相も変わらずお美しいことで」

一目でわかる、主に女子で構成された薔薇色の賑やかさが校内各所に伝播し、騒ぎは徐々に拡大する。

圧巻の光景の発端者は、最早言うまでもない。

「来たな。樹々瀬灯が」

樹々瀬灯。この学校では言わずと知れた有名人。

成績は不動の学年一位、運動神経は群を抜き、絶世の美男子と名高いこの世のありとあらゆる黄金比を体現しているであろう完璧な容姿。おまけに品行方正、クールで物静かな性格らしく、実際に関わった人たちが軒並み心を奪われるというのにも頷ける。言うなれば天性のカリスマ。

私なんか直視するのも烏滸がましい存在。正直憧れよりも気が引けるという感情の方が勝つ。

「はーいちょっと失礼。通りまーす」

完全に上の空で牛乳を啜る傍ら、輪の中心で一際明るい声が上がる。男子の声。それも聞き慣れた。

反射的に顔を上げた時には、解放済みの窓の側に腰掛ける私の眼前で、日光を目いっぱい受けた金髪が楽し気に揺れていた。

「まーゆなっ!元気!?」
「びっくりしたぁー…。急に現れないでよ泉くん」
「驚かすのが目的なのに?」

悪戯っ子の如く笑う泉くんを不思議そうに追いかける目線が散見される。そっか、樹々瀬くんと一緒に居たんだ。
「ハイスペ幼馴染の貴重なツーショットが…」などと彼を惜しむ声がちらほらと聞こえてくるけれど、当の本人はお構いなしに窓際に居座り続ける。

「俺ら結局クラス分かれたなー。社会の選択全部同じだし、2年連続あると思ってた」
「でも、他に一緒のクラスだった人結構いっぱい固まってるんでしょ?」
「そーなんだけどさぁ」

へにゃへにゃと脱力していくのと同時になんだか髪の毛も輝きを失っていくよう。無邪気で天真爛漫な生き方は眩しくもあり、羨ましくもある。

「で、何の用?」

瞬間、空気が凍り付く。見ると、眼光鋭い桃が泉くんをねめつけていた。
あからさまに不機嫌。語調が完全にヤンキーのそれ。並みの男子なら問答無用で怯むところを、泉くんは飄々と続ける。

「あ、まっちゃんから伝言。文化祭の資料取りに来いって」
「松沢先生か、早く行かなきゃ嫌味言われる…」
「頑張れ文化委員長!」

沈む気持ちを奮い立たせ席を立つ。泉くんも「俺も戻ろ。前後からの圧がヤバい」と踵を返す。

前から…は鬼の形相をしている親友だとして、後ろ?
不意に窓の外に視線をやると、群衆の中に泉くんが通ったであろう隙間ができていた。
じりじりと移動するのに合わせてその空間ももみ消されてしまいそう…。

そう思った瞬間、思わぬ光が目に飛び込む。

いや、光と形容するにはあまりにも優しい。清廉で繊細で…それが瞳の煌めきだとやっと気付く。

目が合った。誰と?


…樹々瀬くんだ。


息を呑む。

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