お嬢様は“いけないコト”がしたい
そう言いながら、グラスを持っていない手でスーツのポケットに手を入れ・・・



スマホを出した。



幸治君の手の中にあるそのスマホを眺めていると、幸治君の静かな声が響いた。



「なので、連絡先交換しませんか?
いつでも付き合いますから、俺。
頑張っている羽鳥さんの為に、俺が出来ることをしたいんですけど。」



そんな言葉が静かに響いてきた。



私の中で沸き上がる“悲しみ”の感情とともに、響いてきた。



でも、私は幸治君のグラスに自分のグラスをつけたまま小さく頷いた。



「幸治君の連絡先、教えて?」



幸治君が不思議そうな顔で私のことを見詰めている。
私がスマホを出さないからだと分かる。



「今日が過ぎても幸治君の連絡先を覚えていられたら連絡する。」



度数の高いカクテル、それを幸治君のグラスからゆっくりと離し、一口だけ口に含んだ。



初めて飲んだお酒の味を噛み締めながら伝える。



「酔い潰れたい気分だから、幸治君の連絡先も忘れちゃうかも。
今幸治君が私に伝えた言葉も忘れちゃうかも。」



“忘れたい”とも思う。



“俺は羽鳥さんのことを異性として好きになることは絶対にありません”



その言葉をなんでか忘れたいとも思う。



スマホを手の中に持っている幸治君に聞く。
幸治君が少しだけ俯き、その視線の先にはスマホが。
幸治君のスマホを私も見下ろしながら聞く。



「このスマホって職場で支給されてる物?
それとも幸治君の?」



「俺のです。」



「そっか・・・。
スマホ、持てるようになったんだね。」



「はい、借金はありますけどちゃんと稼いでもいるので。」



幸治君はスマホをスーツのポケットに戻した後、口頭で電話番号を伝えてきた。
その電話番号をしっかりと頭の中に入れる。



「お酒、それで終わりにして下さい。」



“酔い潰れたい気分”と伝えた私に幸治君がそう言ってくる。



「忘れないで下さい。
俺がさっき伝えた言葉も、俺の連絡先も。
連絡して下さい、俺ずっと待ってますから。
ずっと・・・ずっと待ってますから。」



そんな幸治君の言葉を聞きながら、私はお酒をまた一口だけ口に含んだ。



甘いはずのお酒。



でも、凄く凄く“苦い”と思った。



なんでかこんなにも“苦い”と思った。
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