君しか考えられない――御曹司は熱望した政略妻に最愛を貫く
　私が病院へ行っている間に、史佳がどう立ち回ったのかはよくわからない。
　史佳の悲鳴を聞いて使用人らが駆けつけたようだが、そのあたりの記憶が私にはない。

　後から聞いた話によれば、私はかなり大量に出血していたという。
　そんな状態を目の当たりにして、史佳はパニックに陥ったのだろうか。彼女は、私が突然暴れだして勝手にケガをしたと周囲に話していた。

　結局、その出来事は私の不注意によるもとのだと認識されている。
　理不尽ではあったけれど、目撃していた人はいない。
　なにかを訴えようにも、都から居候のくせにあまりにも図々しいのなら出て行ってもらうと言われては、口を閉じるしかなかった。

　事態を知った父からは『顔に傷なんかがあったら、お前の価値が半減するじゃないか』ときつく叱責された。
　都は、私と出くわすたびに『醜い』と貶めす。
　そして史佳は、『気持ち悪い』『傷物』と連呼しながら私を責め立てた。それは大人になった今でも変わらない。

　さらに史佳は、私が突然発狂する気が触れた人物であるかのように吹聴した。それは自身の嘘を正当化するためだったのかもしれない。味方のいない私には、反論する勇気も持てなかった。

　彼女は私たちふたりともが通う中学校でもその話を広めたため、私は瞬く間に孤立した。
　傷を負った事実よりも、周りから向けられた恐怖や蔑む視線が怖い。それがトラウマとなって、もとから控えめな性格だった私はどんどん自信をなくしていった。
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