玉響の花雫    壱
朧(おぼろ)
『どうした?』


繋がれたままの手に心臓が
移動したかのようにドクドクと
煩くて、筒井さんの声がその音のせいで遠くに感じてしまう


筒井さんは大人だし沢山経験が
あるのは分かってる。年齢的に
こういう事も手練れているかもしれないけど私は‥‥‥‥


私のことを沢山気にかけてくれるし、
大切にしてくれてるのはすごく伝わる
けど、筒井さんは私のことを
どう思ってるんだろう‥。


遊びだったらツラいし、
部下として可愛がってくれてるなら
一緒に寝るのはやっぱり違うと思う



「あ、あの‥‥私リビングに寝ても
 いいんですよ?昔から何処でも
 寝れるタイプですから大丈夫です。
 筒井さんはゆっくり寝てください」


繋がれていた手を離し、
リビングに戻ろうとすると、今度は
後ろから抱き抱えられ、心臓が大きく
跳ねた。


『お前の大丈夫は俺が
 大丈夫じゃない‥‥安心しろ。
 何もしないから一緒に寝るぞ。』


えっ?


もう一度手を引かれると
寝室に連れていかれ、そのまま
ベッドに座らされた。


いつの間にクーラーをつけていて
くれていたのか部屋はとても涼しくて、
筒井さんがベッドサイドの
ルームランプをつけてくれると、
視線がぶつかった。



「あの‥‥筒井さんわたし‥‥」


『フッ‥‥‥大丈夫。分かってるから
 言わなくてもいい。』


えっ?


私の元に来ると、隣に座って
頭を優しく撫でてくれ、おでこに
唇がそっと触れた。


『今日は震えてたから心配で
 1人にしたくなかっただけだから
 安心して寝ろ。ほら横になって。』


薄い肌触りのいいシーツをとると
そこに寝かせてくれ、
筒井さんも反対側からベッドに入り
明かりを消した。


『おやすみ。』


「‥‥‥‥おやすみなさい。」


私に背を向けてしまった筒井さんを
暗闇の中で見つめると
さっきの言葉の意味を考えた


分かってる‥‥‥‥。
確かに筒井さんはそう言った。


私がそういう経験がないことが
あの部屋の入り口で拒否したことで
伝わってしまったのかな‥‥


今までの人たちはきっと大人で、
部屋の前で逃げたりなんか
しないから呆れてしまった?


目尻から涙が流れてしまうと、
見られたくなくて私も筒井さんに
背を向ける


こんなとこで泣いたら
もっと面倒臭いと思われてしまうから、
もう寝よう‥‥‥


えっ?


瞳を閉じた後、シーツが動く音がして
次の瞬間私を後ろから抱き締める
腕に体が一気に強張ってしまった



『どうして泣いてる?』


「‥‥な、泣いてません‥‥‥
 筒井さん離してっ‥‥ヒャッ!」


ジタバタ暴れていると、今度は
あっという間に仰向けにされ、
顔の横に両腕を置かれると
真上から見下ろされる形になった


『1人で泣くなと言ったはずだ。』
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