玉響の花雫    壱
『筒井さんが旅立つのって明日?』

「うん‥‥」


『そっか‥‥。仕事だからお見送りは行けないし、今日の夜に会うの?』


別荘から戻るとすぐに社内で筒井さんの辞令が発表され、社内は暫くその話でもちきりだった。


栄転なんてすごいことだと思うけど、人事の主任として仕事を完璧にこなして来たがゆえに、ここの穴埋めが大変だと古平さんは言っていた。


蓮見さんや亮さんと報告がてらマンションに集まり3人で朝まで飲み明かしたみたいだし、亮さんにはマンションを空けてる間の管理も頼んだらしい。


「もうちゃんと筒井さんと話はできてるから大丈夫。心配いらないよ。」


『霞‥‥』


あの星空の下で伝えた思い以上の言葉が今は浮かばない‥‥だから、不思議と涙は出なかった。


よし‥‥そろそろ上がろうかな‥。


『お疲れ様』

「‥えっ?‥‥筒井さん!」

『フッ‥‥なんて顔してるんだ?』


本社で素敵なスーツ姿を見られるのも今日で最後かもしれない‥‥そう思うと、やっぱり目頭が熱くなる。


「ビックリしました‥‥。」

『お前の働いてる姿をちゃんとこの目で見ておきたくてな。』


同じ事を考えていたことに嬉しくなり少しだけ笑ってしまった


『送るからご飯に行かないか?』

「はい、嬉しいです。」


もう会えないと思っていたから、旅立つ前日の忙しい時間に会いに来てくれて素直に返事をした


『寒いからあったかい物でも食べに行くか。』


旅立つ前に美味しい日本食を食べたいと言う筒井さんと、前回行った個室の料亭に行き、コースに鶏鍋もつけて沢山美味しい物を食べた。


またここに次も来る時は、筒井さんとがいい‥‥‥。


「美味しかったですね。」

『そうだな‥‥』


家まで着いてしまうのが今になって寂しくなってきた。分かってたけど、最後にこんな楽しく過ごしてしまうと別れがツラい。


それでも無情にも車がマンションに到着すると、シートベルトを外した私は筒井さんに思い切り抱きついた。


「筒井さん‥気をつけていってらっしゃい‥‥。」

『ありがとう‥‥‥行ってくる。』

「はい‥お元気で‥私は大丈夫ですから。」


最後は絶対泣きたくなかった。そうじゃないと、向こうで私のことを思い出して貰えた時に泣いた顔になってしまうのが嫌だったから。



『フッ‥‥‥お前の大丈夫が1番大丈夫じゃないけどな?』


引き寄せられ唇が塞がれると、すぐに離れてしまい、鼻を思いっきり摘まれた


「痛っ!!!筒井さん!!」

『ハハッ‥‥茹蛸?』

2人で笑い合いもう一度抱き合った。


いつになるか分からないけど、また次に会えたらこうして笑顔で抱き合いたい‥‥


筒井さん。
あなたを好きになれた事が、私をこんなにも変えてくれました。だからあなたの事を遠くから想っています‥


第一部 完


玉響の花霞へ続く
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