玉響の花雫    壱
どの話からご飯に行こうってなるのか
分からなくて口が思わず開いてしまう


「蓮見さん!私帰りますよ?
 今日は‥用事がありますから。」


第一こんなお酒が強い人と一緒に
行っても私は付き合えない。


『まあまあそんな急ぎなさんなって。
 来月発売予定の新作のチョコレートを
 あげるから。』


「えっ?新作ですか!?」


菖蒲が言ってたチョコのことだ‥‥


手招きされたので、迷ったけど
蓮見さんのデスクに向かい、
正方形のブラウンの箱に入った
チョコをじっと見つめた。


「うわぁ‥‥アーモンド型なんですね。
 美味しそう‥‥」


『食べたい?』

「はい‥食べたいです!」

『ブッ、ほんとに正直だねぇ?
 では‥‥‥ご褒美にあげるから
 見返りとして今日は滉一と
 一緒に帰ってやって。』


えっ?


箱からチョコレートを取り出し
私の口に強引に一粒押し入れると
蓮見さんが頭を撫でてくれた。


何故かを聞きたいのに、大粒の
アーモンドチョコで口がいっぱいで
上手く話せない


『帰る前に捕まえとけって言われて、
 会社でも俺はアイツのいいなりって
 わけよ。分かる?この気持ち。』


ブンブン横に首を振りながらも
チョコをモグモグと食べる私を見て
蓮見さんが面白そうに笑った。


『純粋で素直な霞ちゃんならきっと‥』


えっ?

『待たせて悪い‥‥って
 何食べてんだ?』


ドキッ


結局蓮見さんに何も聞けないまま
筒井さんが来ちゃったし、慌てて
頂いたチョコを飲み込んだ。


『エサで釣ったら食いついたから
 餌付けしてたとこ。モグモグして
 リスみたいで可愛いよねぇ?』


『もう帰っていいぞ、お疲れ。』


『酷ーー!!!筒井くん最低!!!
 お駄賃くれないしもう拗ねたから
 帰るわ!!じゃあねー霞ちゃん』


『はぁ?いい歳した大人が
 お駄賃ってなんだよ。‥‥井崎さん
 もう帰れるなら行こうか。』


頭を叩かれた蓮見さんは
不貞腐れながら総務課を出てってしまい
残された私に筒井さんが声をかけてきた


「あ、あの何かご用でしたら
 今聞きます。」


何故一緒に帰るのかよく分からないし、
こんなところをまた
八木さんに見られたりしたら怖い‥‥。


鈍い私でも、八木さんが筒井さんに
好意を持ってることは分かるから、
尚更今日は1人で帰りたかった。


『ここじゃ話せない。』


「‥‥私は筒井さんと話すことなんて
 何もありません。‥用事があるので
 失礼します。」


自分のデスクに戻ると鞄の中に
荷物を片付け始める


筒井さんは車だと思うから、
エントランスから電車に乗れば
追いかけてこないと思うから
早く帰ろう‥‥


ちょうど来たエレベーターに
乗ろうとしたら中にいた八木さんと
思いっきり目が合い体が震える


『何?乗るの?乗らないの?』

ドクン
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