俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「いつになく大胆だな」
「っ…」

 男性と一緒にお風呂に入ったことなどない。
 羞恥心で蕩けてしまいそうだが、今を逃したら二度とないかもしれない。

 手術に100%はない。
 10分程度で終わるような手術であっても、何が起きてもおかしくないのが手術だ。

 今シーズンのGPが終わるまで、あと何回この人に会えるだろうか。
 GP期間が終わったら治療に専念しようと考えている羽禾は、今ある幸せを肌で噛みしめていたかった。

 口調は相変わらずぶっきらぼうな感じの彼だが、いつだって態度には優しさが込められている。

 今もこうしてシャワーで視界が滲むのを、何度も何度も手で優しく拭ってくれている。

「ちょっと待ってて」
「へ?」
「取って来る」

 チュッと額にキスをした彼は、避妊具を取りに行こうとした。
 羽禾は、そんな瑛弦の腕を掴んで首を横に振り、無言で訴える。

「そういうわけにもいかねーだろ」
「……」

 自分が何をしているのか、分かっている。
 例え大好きな相手でも、そう簡単に決めていいことではない。

 だけど、もしかしたら……。
 2か月後には、自分はこの世にいないかもしれない。

 例え命が助かったとしても、今彼を想っているこの『愛おしい』という感情ですら消えてる可能性が高い。

 両腕を瑛弦の首に巻き付け、ぎゅっと抱きつく。
 
「羽禾、マジでおかしいぞ」
「今日はおかしくなりたいのっ」

 お願い、拒否らないで。
 私の全てを受けいれて。

 今日が最後。
 もう我が儘を言ったりしないから……。

「じゃあ、そのまましっかり掴まってろ?」
「うんっ」
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