俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
手のひらに乗せられたのは『8』の形をしたキーリング。
そのキーリングにリモコン型のキーが繋がれている。
家の鍵を渡すという行為が何を意味しているのか分かるから、飛び上がるほど嬉しい。
しかも、彼は『本気にならない男』としても有名な人。
自宅の鍵を簡単に女性に渡したりしないのが分かってるから。
これを受取ってしまったら、彼の気持ちを受取ることになる。
だけど今ここで受け取らなければ、残っているあと2戦に支障がでるかもしれない。
ううん、支障が出るようなやわなメンタルの持ち主でないのは分かってるけれど。
それでも、1%でもマイナスの可能性を塗りつぶしたいから……。
「ありがとうございます。後悔しませんか?」
「フッ、何の後悔だよ」
これは私のエゴだ。
彼がどんな想いでこれを手渡してくれたのか、考えなくもない。
だけど、それ以上に……。
残り少ない時間を、彼との想い出で埋め尽くしたくて。
『後悔しませんか?』
自分自身に言い聞かせるような言葉。
受け取った時点で、もう後戻りはできない。
自分が去った後の彼を思い浮かべないわけではない。
それでも、今という時間を無かったことにはしたくなかった。
『笹森 羽禾』という人間が、『司波 瑛弦』という人物の目の前に確かにいたのだと。
「瑛弦さん、大好きです」
「フッ、礼ならベッドの上で受け取るぞ」
「もうっ」
涙が溢れてしまいそうなのを必死に隠すために、彼にぎゅっと抱きついた。