俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「は?」
「カタロニアの縁石、他と違って赤一色だろ」
「……」
「レース後にサーキットに入る許可取って、あの子必死に小石を袋いっぱいに拾ってた」
「っ……」
「それをいつも幾つかバッグに忍ばせて、どこに行っても願掛けできるように持ち歩いてたの、知らねーだろ」
「……マジかよ」

 赤い石にそんな意味があったなんて。

「今だから言えるけど、俺、羽禾ちゃんに2回告ってんだよね」
「は?」
「2回とも、速攻で玉砕したけど」

 ハハハッと笑う基。
 この男はおちゃらけたことを抜かすが、嘘を吐いたことは一度もない。

「お前、ちゃんと気持ち伝えてたか?」
「……」
「俺は2人でしっかりと話し合った方がいいって伝えたんだけど」
「……」
「今こういう状況になってるってことは、話し合えてなかったってことだろうから」

 基が知ってて、俺には言えなかった事実。
 内容が内容だけに言いづらかったのは理解できるが、それでも全てを受け容れられる男だと信じて欲しかった。


 記憶を失うと分かっていて、俺の前から去った。
 
 俺を傷つけないため?
 俺が簡単に忘れると思ったから?
 それとも、はなから信用されてなかったのだろうか?

 裏切られたショックなのか?
 当たり前にあった関係が壊れたダメージ?
 俺は取るに足らない男だと思われた虚無感?

 やり場のない感情が溢れ出して、心臓がズキズキと痛みを帯びる。

 パパラッチにスクープ撮らせておけばよかった。
そしたら、世界中に『司波 瑛弦の彼女』だと証拠を残せたのに……。
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