人魚の鼓動はあなたに捧ぐ



 少年を追って、藪の中に入る。

 無数の葉で視界が悪く、足元もでこぼこ道になっている。

 それでもなんとか進み続けたが──ふいにわたしは(つまず)いて、そのまま急斜面を滑り落ちてしまった。

 落ちた先は、白く細かい砂の上だった。

 少し先に、きらめく海が広がっている。

 大きな岩の姿があることから、昨晩わたしがいたのと同じ浜辺なのかもしれないと考える。

 ……少年が死んでいて、わたしも死んだ──かもしれない浜辺。

 そう思うと、爽やかな景色もどこか嫌なものに感じる。


 さっきの藪は、浜辺への近道といったところなのだろうか。

 砂浜の上に倒れ込んだまま、ぼうっとそんなことを考える。

 目覚めてから、どこか感覚が(にぶ)ってしまったようだ。

 今になって、足首がズキズキと痛む。


「ひねった……?」


 だからといってここに倒れたままでいるわけにもいかないので、立ち上がろうと思ったけれど──痛みで、叶いそうにない。

 辺りを見回したが、さっきの少年どころか、人影はひとつも見当たらない。

 ……困った。

 どうしようかと思案していると、ふいに頭に冷たさを感じた。

 見上げると、頬に雨粒が落ちる。

 青空だというのに点々と降りはじめた雨は、あっという間に激しさを増した。

 慌てて雨宿りできそうな場所を目視で探す。

 すると、崖下の大きな岩の影が、洞穴のようになっていることに気がついた。

 わたしは大粒の雨に打たれながら、這うようにそこを目指して進んでいった。


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