『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -
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 家族で話し合った結果を山下に報告すると『よかった』と喜んでもらえた。


 百子は娘や息子に彼の子供になるのだから山下さんと
仲良くしてほしいなんてことは強制したくなかった。


 自分は彼のことが好きで一緒になるわけだが、だからといって子供たちも
自分と同じ熱量で彼のことを好きになれるだろうなんていう考えは
おかしいことと分かっているから。


 どちらにも適度な距離でいてもらえたらそれでいいと思っている。

 これからの山下との関係は自分にとっても伸之との結婚生活とは
180℃違い、友だちのような同士のような関係性を築けるような
気がしている。


 娘に孫ができたとして、おじいちゃんだよーっていうのとは少し違って、
他所のおじさんよりは少し親しくそして暖かな眼差しを持つ身近な存在の
おじさんでいてくれればそれでいい。

 ふふっ、百子はその日を想像した。

『司おじちゃん』って孫には呼ばそう、そう考えたのだ。
 私のことはもちろん『百子ママ』って呼ばすっ。
 この頃の百子はそんな風に考えていた。



ふふふっ。これから恋人同士のような2年を過ごし、その後はちゃんと籍も入れ、
れっきとした夫の存在ができる。

 なんて心強いことか。
 子供たちが親よりも友だちや恋人に心寄せるようになった時節に、
寂しい思いをすることもなく自分も大切な人と日々を重ねていけるのだ。


 なんと幸せなこと。
 かつて愛し愛された人との別れがあり『さよなら』と言ったことがあった。

 それは随分昔のことのように思える。

 振り返れば自分の人生の曲がり角は強烈だったなと思う。

 二度目の曲がり角は緩やかで穏やかに迎えることになったけれど、
それでもある意味強烈だと思える。
 
 人生の曲がり角、自分の幸福度、そんなものを考えるとそう思えるのだ。


 誰かをまた好きになったり、誰かから愛されるなんて考えもしなかったから。

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