冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています
『相談には、行ったんだよね?』  
『いや。お前の指輪が見えて、結婚の噂が本当だったんだって思って、咄嗟に逃げたあと戻れなくなって予約時間が過ぎて、キャンセルの連絡を入れた……』  
『もう一度予約して、相談しよう……自殺は絶対にだめだよ』  
 
 メッセージしだいで本当に人ひとりの命が失われるかもしれないと思うと、変な汗が出てしまう。返答を待つと、やがてメッセージは届いた。
 
『謝罪させてくれて、話を聞いてくれてありがとう。もう一度予約するよ。……結婚おめでとう』

 最終的に、彼は落ち着いて現実に向かい合うようだった。

『お祝いありがとう』 
『今までありがとう果絵(かえ)。さよなら。謝罪もできたし、今度こそ、もう連絡しないよ』
『あの、死んだりはしないでね……?』 
『うん』
 
 メッセージのやり取りが終わり、そっと独り言を吐く。

「……颯斗さんには本命の相手がいて、ビジネスライクな結婚なんだけどね」
 
 呟くと、背後から颯斗さんの声がした。

「やり取りは終わったのか」
「――颯斗さん」
  
 いつの間にか、颯斗さんが帰宅していた。内容が深刻すぎて、集中していて気づかなかった。

「果絵。今の相手は噂の元カレか?」
「いつから見てたんですか?」
「お祝いありがとう、のあたりから。言い寄られているのかと警戒したが、違うようでよかった。俺は今とても安堵してる」
 
 端正な顔は、安堵の表情を浮かべていた。
 まるで、心の底から愛されている妻みたい――そう思ったら、つらくなった。
 
「颯斗さん。言おうと思ってたんですけど、誤解しちゃうんです。そういうの」
 
 一緒にいると、胸が高鳴る。格好いいと思う。
 大切にしてくれる彼の隣は、居心地がいい。
 彼の妻でいられるのが誇らしくて、幸せに思う。
 
 ……だからこそ、その関係が偽物だと思うと、胸が痛む。

 ──私が、颯斗さんのことを好きだから。
 ……好きになってしまったから、やるせない。

「果絵。すまない……ちょっといいか?」

 私が唇を固く結んでいると、颯斗さんの真摯な瞳が私を覗き込んで、真剣に言う。

「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない……それが、契約書にも明記してある。俺は、君を愛している。君の側はビジネスでいいが、俺はビジネスではなく本気だ。……俺の本命は、君だ。俺たちの結婚は、俺の片想い婚なんだ」

 ――片想い婚?
 
「片想いの相手は……」
「果絵だよ」
「ええ?」
  
 自分にとって都合のいい、夢でも見ているのだろうか。
 呆然としていると、颯斗さんが私の左手に指を絡め、軽く持ち上げて指先にキスをする。

「……勘違いじゃなくて、ですか?」
「ああ、そうだ。見せたいものがあるんだ。来てくれ」
 
 颯斗さんは私の手を引き、自分の部屋に連れていく。
 なんだろう、と思いながら付いていくと、いくつもの折り鶴を見せてくれた。

 桃色、水色、黄色。
 明るい色彩の折り紙で折られた鶴は、懐かしい感じがした。
 
「――これ……」
  
 折り鶴の表面には、文字で「リハビリがんばれ!」とか「いつもがんばっててえらい!」とか書いてある。
 ……私の文字だ。

「私、これ……知ってる……」

 見た瞬間に、私は目を見開いた。

 それは、私の中にあった記憶を刺激して、蘇らせたのだ。

「『キャンディのお兄ちゃん』……?」




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