シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 ばれたとわかって、澄ました顔で貴和⼦が出てくる。

「もちろんよ。⼀花さんが望むなら、センスのいいフラワーデザイナーがいるって宣伝するわ!」
「ありがとうございます。助かります!」

 フラワーデザイナーの師匠から独⽴して、まだ⼀年⽬の⼀花には固定の顧客が少ないから、本当にありがたい話だった。独り⾝だから、なんとかかつかつで⽣活できているレベルなのだ。

「ところで、⺟さんはなんでこっそり覗いてたんだ?」
「あら、だって、⼆⼈のお邪魔をしたらいけないかしらと思って。うふふ」

 少⼥みたいに笑った貴和⼦に、颯⽃があきれた⽬を向ける。

「変な勘ぐりをしないでくれよ。彼⼥とはなにもない」
「そうですよ、貴和⼦さん。颯⽃さんは私がトラブルに遭ったのを助けてくれただけです」

 きっぱりと言い切った颯斗に一花も補足するが、貴和子はわかってるとばかりに含み笑いをやめない。
 そして、にんまりとして息子に指摘する。
 
「でも、颯⽃が⼥の⼦を助けるなんて、めずらしいじゃない」
「ひどい⾔われようだな。俺は結構親切だぞ?」
「颯⽃が⼥の⼦に冷たいっていうのは有名よ?」
「それは誤解を招いてめんどくさいことにならないようにだ」

 そのやり取りで、⼀花が貴和⼦にやけに歓迎されている理由がわかった。
 彼⼥は息⼦の恋愛話を期待していたのだろう。
 ⼀花も颯⽃も完全に否定したのに、貴和⼦は納得していないようだ。

「装花が終わったなら、お茶にしましょう。颯斗もね」
「なんで俺まで?」
「いいじゃない、たまには母に付き合ってくれても」
「まぁ、いいが。君は時間は大丈夫なのか?」

 颯斗は母親をむげにもできない様子で苦笑して、一花に視線を移すと聞いてきた。
 急に会話を振られて言葉に詰まった一花はこくこくとうなずく。
 前回の雰囲気からそんな流れになるのではないかと予想していたから問題はない。

「じゃあ、悪いが、母に付き合ってやってくれ」
「私でよければ喜んで」
「まぁ、うれしいわ」
 
 貴和子がにこにこと笑顔で両手を合わせ、喜んだ。
 三⼈でのお茶は思った以上に話が弾んで、昼近くになってしまい、貴和子にねだられて昼食までいただくことになった。
 颯斗はできる社会人なのだろう。話題も豊富だし、聞き上手で、一花はしゃべりすぎたと少し恥ずかしくなった。
 フラワーデザイナーの仕事がどんなに好きかを熱く語ってしまったのだ。憧れのフラワーデザイナーに師事してから独立したばかりだということまで。
 貴和子も颯斗もそんな一花にいちいち感心して応援してくれたから、うれしくなってしまってついつい調子に乗ってしゃべり続け長居してしまった。

(気持ちのいい仕事先が見つかってよかったわ)
 
 きっかけを作ってくれたマチュアのドタキャンに感謝してもいいかもと一花は思う。
 それからも、一花は装花に来るたびお茶をいただいて帰るのが定番になって、そこにたまに颯⽃も加わった。
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